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CASE01

パッシブな設計事務所からアクティブな地域のハブへ

埼玉県草加市 / 一級建築士事務所 co-designstudio / 小嶋 直さん

まずはじめに、建築に携わるきっかけを教えて下さい

小学生のときにはもう建築というものに興味を持っていました。家の近くに建築家で画家の先生が寺子屋を開いていて、そこに通い始め、そこにあった模型や図面、家具、絵を目にして、「なんか建築家ってかっこいいな」というところから建築の道を目指すようになりました。寺子屋の先生からは「建築をやりたくても建築馬鹿になるなよ」「建築にはアカデミックな部分もあるけど、暮らしや生活に直結するものだから、机上でかっこいいものを追い求めて社会に意味のないものをつくるなよ」ということを言われていました。その言葉を根底に持ちながら、建築のことをやろうと思っていました。建築=ただ図面を描くということではなく、暮らしの中に建築の学びが潜んでいるという気づきをもらいました。

そのまま建築への想いを持ち続け、大学も建築の学部に進みましたが、単に設計をするだけではない「建築都市デザイン学科」という学科でした。そこはまちづくりの視点も持ち合わせた学科で、ひとつの建築物だけではなく街を見るというところも学んできました。その中で師事した先生が住宅設計をメインに、地域や商店街といった集合した建築を専門にされていた先生で、大規模建築というより小さな建物が集積したようなことを取り扱っていました。「ひとつひとつの家が集まって街になっている。自分たち一人ひとりの暮らしが街に繋がっている。」という言葉が印象に残っていて、そういう意識で設計をやっていきたいという今の思いに繋がっています。

まさしく一人ひとりが「省エネ」という貯金を出し合って、日本全体で家庭部門のエネルギー消費半分を達成しようという1985アクションの基本理念と合致していますね。
大学卒業後は設計事務所に勤められたんですか?

はい。大学を卒業して就職した設計事務所は住宅もやっていましたが、文化財の修復なども取り扱っていました。そこで、綺麗に磨いた古い金物などを「調査が終わったから捨てていいよ」と言われ、使えるのに廃棄してしまうということに罪悪感や違和感を感じていました。そこからごみ問題や環境問題を意識し始めました。

また、この事務所では省エネ建築や断熱にも取り組んでいて、環境省事業の実験住宅などを建築し、温度の実測などもしていました。シミュレーションを立て、考えた通りに結果が出るということを数字で見ることができたというのが面白かったですね。住宅だけをやっている一設計事務所ではできないことを経験させてもらえたおかげで、温熱環境やエネルギーにも意識が向くようになりました。

なるほど。そんな前職での経験をもっていよいよ独立されたわけですね。

ちょうど前の事務所からの独立を考えていた時に住宅設計の依頼を頂いて、それを機に事務所を設立しました。それまでに学んだこと・経験したことを深堀りして設計したいと思たっときに、全国的に省エネなどに取り組んでいる団体を調べてForward to 1985 energy lifeにたどり着きました。

ちょうど小嶋さんが独立された年と、Forward to 1985 energy lifeが法人化したのが同じ年だったんですよね。

そうですね。独立する前の1年間は勉強など自由にさせてもらっていたので、断熱などの見学会などを色々探して参加していましたが、自分の求めているレベルよりハイスペックな物件などもあった中で、1985は断熱だけでなく「家庭の省エネ」を目標にしているところだったり、メンバーに設計事務所が少ないというところにも面白みを感じて加盟することにしました。

断熱というところから検索していただいたわけですが、そこからエネルギー問題に取り組むということに関してはどのように繋がっていきましたか?

断熱材のことを調べていくと、この製品は断熱性能が高くて安いけど石油由来で製造コストが高いとか、この製品は断熱性能はそんなにだけど素材は環境負荷が少ないだとかいうことが分かってきて、もちろん価格が安くて製造(エネルギー)コストも環境負荷も低いものを常に使えたら良いですが、予算の中で全てやりきることは難しいので、お客様にはそういった情報もお伝えした上で選択して頂くようにしています。

なるほど、使うエネルギーではなく作る時のエネルギーから入られたわけですね。使う側のエネルギーについて、「各家庭のエネルギー消費量を半分にしよう」という1985アクションについてはどのように取り組んでいらっしゃいますか?

1985地域アドバイザー拠点になると最初に自宅のエネルギー消費量が平均の半分になっているかをみんなチェックするのですが、当時は2人でマンションに住んでいて、「意外と達成できるな」という感じだったんです。「こんな暮らし方で達成できる」という感覚がつかめたので、お客様の家の設計や暮らし方の提案にもそれを落とし込んでいます。

少しエネルギーの話から逸れますが、最近あんこ屋さんの設計をされたそうですね。

クライアントさんは元々和菓子屋さんにあんこを卸していたのですが、すごく素材などにこだわって作っていて、そのこだわりを直接お客様に伝えるためには卸ではなく直接販売ができる店舗が必要ということで、その店舗の設計のご依頼を頂きました。商品の素材にこだわっているので、店舗に使う建材も県産材などにこだわりたいということでお話を頂いたのですが、co-design studioの設計姿勢以外にも、つなぐばという場所をつくっていたりという活動も知ってくださっていて、2つセットで共感してくださってのご依頼だったということが分かりました。

つなぐばは埼玉県草加市にあるシェアアトリエで、スペースを借りてレッスンやワークショップを行ったり、カフェスペースを複数人の作り手でシェアして日替わりでごはんやお菓子を提供することができる非常にユニークな場所です。従来のシェアアトリエやシェアオフィスは決まったメンバーだけが出入りするものだったのが、つなぐばは様々な人が利用できる地域のハブとして機能しています。短時間でも借りられ、自分で店舗を作るというような大掛かりな初期投資が必要ないので、女性の創業の第一歩の場所としても活用していただいています。

シェアアトリエ つなぐば
https://shareatelier-tsunaguba.com/

ここの運営管理をco-design studioとは別に「つなぐば家守舎」という会社を立ち上げてされているんですよね。まさしくまちづくり、つながりづくりの会社ということになると思いますが、ここに至るまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか?

1985地域アドバイザー拠点としての2つめの課題で、「地域の行政窓口を訪ねる」というものがあったんですが、こういう課題でもないと行政窓口を訪れる機会もないので、早速川口市の地球温暖化防止活動推進センターを訪問しました。ちょうどその時「省エネ住宅ワーキングチーム」を組織しようとしていたところだったということで、そのメンバーとして活動させてもらいました。その経験を踏まえて、今度は首都圏の1985地域アドバイザー拠点メンバーと一緒に埼玉県地球温暖化防止活動推進センターを訪問し、ご縁あってそのセンターが主催するSEGsエコフォーラムに携わらせて頂くことになりました。現在はSDGsエコフォーラムでの活動以外に、学校等を会場にした断熱ワークショップなども担当しています。はじめは単にボランタリーな活動でしたが、段々と事業を任せていただけるようになり、CSR的な活動からCSV活動に徐々にシフトしてきました。

※CSR(Corporate Social Responsibility):企業が社会的責任を果たすことであり、経済的な利益を目指すものではない。
※CSV(Creating Shared Value):「共有価値の創造」を軸とした経営のこと。共有価値とは、経済的価値(利益の獲得)と社会的価値(社会的課題の解決)を両立することを指す。

そんな活動をしてはいましたが、本業である設計事務所としては、いくら環境のためによく、社会のためにもなる性能の良い家を設計したいと思っても、お客様からの依頼がないと実現することができないというどちらかというと受け身な立場でした。そんな時に身近でも空き家が問題になってきていて、自分たちから地域の大家さん等にアプローチしていくことで受け身ではなく能動的に地域の問題解決と事業展開ができるカタチに生まれ変われるのではないかと考えました。依頼があったわけでもないのに、ここをこんなふうに設計して、こんなふうに活用したら地域がよくなるんじゃないかというようなことを考えていた時に、タイミングよく草加市で「空き家を活用したリノベーションまちづくり事業」を行っていることを知り、且つ、草加市からも参加しないかとの声がかかり、つなぐばが実現しました。つなぐば立ち上げの際に行ったのが「欲しい暮らしは自分たちで。」をコンセプトにした断熱DIO(DO it ourselves)ワークショップです。

つなぐばの立ち上げと断熱DIOワークショップは、まさにCSVの目指す「共有価値の創造」ですよね。空き家問題、低断熱、女性の創業という『社会的課題の解決』と、つなぐば家守舎の『経済的価値』が分け隔てなく両立している。つなぐばはスタートから6年経って今尚活発に活用されていますが、ここをきっかけに色々な事業を展開されているようですね。

はい。実は今いるのはつなぐばから徒歩2分の所にある「さいかちどブンコ」の2階です。さいかちどブンコは私設図書館で、「一箱本棚オーナー」を募り、そのオーナーが蔵書を用意しています。通常、図書館というと運営者が蔵書を置いて、利用者は本を借りるという一方通行ですが、ここでは運営も利用者も地域の方に行っていただいているので、つなぐば同様に双方向に文化や交流が行き交う拠点になっています。

その他にも鉄道会社さん所有の団地のリノベーション・活用運営や、新たに古民家をお借りしてのシェアアトリエ計画が進行しています。

大きな事業に携わらせて頂くことも増えてきましたが、これからも「ひとつひとつの家が集まって街になっている。自分たち一人ひとりの暮らしが街に繋がっている。」という意識を大切にしながら、地域で活動していきたいと思っています。

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